壊れるまで使う

あるとき、和尚さんは考えました。

お寺で、お釈迦様やお大師さんなどにお供えするご飯を「仏飯(ぶっぱん)」と言います。仏飯は、炊いた飯釜から、一番初めによそったご飯をお供えするのが習わしです。お供えする時間は、私が朝の読経をする前ですから、「朝一」です。下げるのは11時30分くらいです。

お供えする際に使用する器を、総称で「仏器(ぶっき)」と言います。仏器は、仏器専用の為に施された「器」を使います。お寺では、どなたが、いつ、何を、何の目的で施されたかを冊帳に記録しています。和尚は、仏器が、どのような経緯で寺に施されたのか、その経緯を決して忘れることはありません。実際に、祭壇にお供えする度に、必ず施した人のことを思い起こしています。これも、決して忘れることのない私の頭の中の習慣です。

お寺に施された、仏飯専用の器「仏器」は、毎日、お釈迦様や、お大師さん、三宝荒神さん、阿羅漢尊者達、また過去精霊の為に使用しています。「器」を施した方の功徳も、大変大きいものであり、毎日、その方の信心に敬意を思い起こします。

仏飯などを供える際に使う器「仏器」や、お花のお供え物等は、仏器専用の「台所シンク」を使用します。例えば、お供え物用の花の水を、手洗い所や、雑巾を洗う蛇口から注ぎません。仏器、仏具、専用の水洗い場のことを専門用語で「閼伽場(あかば)」と言います。お供えに使う水や、仏器を洗う際は、必ず「閼伽場(あかば)」を使用します。

興法精舎のような小さなお寺でも、小さなシンクで「閼伽場(あかば)」を用意しています。仏器、仏具専用の台所「閼伽場」を使用する際の、最も丁寧な使い方は、閼伽場の水を使う前に『般若心経』と「水天真言」を唱えることです。そうすることで、普通の水ではない「功徳水」と呼ばれるようになるわけです。

毎日使用する仏器は、壊れるまで使い続けます。形有る物は『無常』だからと言って、形あるものを粗末にはしません。和尚は、せと物、ガラス製品を壊さないよう毎日慎重に扱っていますよ。お寺の大事な物を手放す時は、よほどの重要な理由がある場合のみです。

和尚 拝